一本の電話

2017年2月のとある日、私の携帯に未登録の電話番号から着電があった。

私は普段こういった未登録(一見さん)番号からの電話に出ることは決してない。

しかし、この日に限ってどうして出る気になったのか今でも不思議である。

 

『はい、もしもし?』(もちろん自分から名前は名乗らない)

『私、海上幕僚監部人事教育部人事計画課制度班長のSと申します。松吉さんの携帯でよろしかったでしょうか?』

役職名が長すぎて実は名前がよく聞き取れなかったが、その声には聞き覚えがあったので

『お久しぶり。通信士』

と突っ込んだら

『ご無沙汰しています。航海長!』

と返ってきた。

 

その声の主とは私が『ちくま航海長』を拝命していた時の通信士だったのである。

それにしても海幕の制度班長と言えば1等海佐職のはずだが、声のトーンは相変わらず若々しい。

(スミマセン、自分もすっかりいい歳なのに3等海佐で退職したので【1等海佐=おじさん】という先入観が・・・)

以前の記事にも書いたとおり、私は育児休業代替要員に登録されているため、その名簿を見て連絡してきたという。

再任用に備える

『実は間もなく退職した元自衛官の再任用制度が始まる予定なのですが、松吉さんは育児休業代替要員に登録されているようですし、もう一回自衛官やってみませんか?』

『うーん、もはや心も体もすっかり民間人なんだけど、それでもなんかの役に立つのかな?』

『もちろんですよ!』

『じゃあ、いつでも行けるように準備しておくよ』

海上自衛隊には人事の妙というものがあるので、私のようなコーヒーの出がらしであっても上手い使いどころを見つけるのだろう。

それにしても、このように人から誘われると常に二つ返事で承諾してしまうのはどうやら私の習性のようだ(苦笑)

 

そういう訳でこの日以来、不用意な発言を防止するためFacebookやブログなどの発信をほとんど停止、また進行中だった新規ビジネスの計画も棚上げとした。

それと同時に体力錬成のため通勤手段を電車から自転車に変更、現在は都内で仕事をしているため横浜の自宅から日比谷公園の駐輪場まで片道28kmを自転車で通勤することとした。

結果的に下半身の筋肉はスゴイことになり、最近では自衛隊の体力測定で1級が狙えるのではないかなどと妄想できるまでに至った(笑)

 

更に現在の国際情勢や最新の軍事トピックスなどについても情報収集に努めた。

(どちらかと言えば苦手意識があるが、そうも言ってられないので)

そういう過程を経て改めて感じるのは、退職後僅か十数年の間に非常に大きな世界情勢の変化が生じているという事実だ。

退職時にはまさか自分が定年に達するまでにこのような世界情勢になるなど想像もしていなかった。

(それは単純に認識が甘かったということに他ならないのだが)

やりたいこととできること

最初の電話にて二つ返事でOKしてから瞬く間に約半年が経過し心身の鍛錬に余念はなかったが、その後S君からは何の連絡もなく漠然とした不安を感じ始めていた。

『あれは単なる社交辞令だったのかな?』

『まあ、復職するしないのどちらに転んでも大丈夫な状態を保持しておこう』

そう割り切って日々を過ごしていた。

 

そんな最中、2017年9月の初めに横須賀地区の同期会が開催されるとの知らせが届く。

現在は非常に面倒見の良い同期が横須賀地区に戻ってきているので、民間人の私にも同期会開催のお知らせが漏れなく届くのである。

(彼が他地区に転出中は全くお呼ばれしなかった)

ちなみにその同期M君は同郷出身で、この記事の最初に述べた『ちくま航海長』時代の砲術長でもあり、共有している思い出も多い。

 

さて、同期会でも再任用の話題となり、どうやら海上自衛隊として新しい制度に真剣に取り組んでいるようだった。

『実はその再任用制度で自衛隊に復帰するかも』

と言う私に同期達は概ね歓迎ムードであった。

 

しかし、同期の一人であるH君から

『自衛隊に戻って何かやりたいことがあるのか?』

と核心をついた質問を受けてふと我に返った。

それはやりたいこと】について考えていなかったからである。

 

思えば現役の時から【やりたいことより】も【できること】または【望まれること】を優先してきた。

それを言葉で表現すると【命のまま】という概念になる。

望まれて復帰することにすっかり浮かれていたが、今更のようにもっと本質的な部分に目を向けるべきだったことに気付いた。

我ながら楽天的に過ぎるなとウンザリする一方で、こういう気付きを与えてくれる同期の存在は実に得難いと思う。

そして、この日から現在に至る約1か月悩ましい日々が始まった。

懊悩からの解放

実は現時点で元自衛官の再任用に関する募集は既に始まっている。

ただし、元陸上自衛官のみが先行開始という形で。

 

またこの制度には年齢制限があり、そこには任用期日において49歳未満の者と定められている。

つまり、現在48歳の私には今年(2017年度)しかチャンスがなかったのだ。

海上自衛隊では早くても来年度以降の募集開始となるため、事実上復帰の可能性は消滅したことになる。

 

これらのことがハッキリしたのは、つい先日当該制度班長との会合によって得た情報による。

いや、すでに転任して担当を外れているのだから、正確には元制度班長というべきだろう。

 

自衛隊というのは不思議な縁で繋がっている組織で

『自衛隊に戻って何がしたいのか?』

と私に問題提起してくれた前出の同期H君の後任として着任しており、たまたま2人揃って市ヶ谷の会議に出席するというので、会議終了後に3人で会合することとなった。

S君とは久しぶりの再会(あの9.11事件以来)で話は尽きなかったが、再任用に関する話も当然話題に上がった。

 

制度班長として自分の在任中に再任用制度を開始できなかったことを詫びていたが、私の気持ちは不思議とスッキリとしていた。

それは、再びこの国の防衛問題に当事者として臨むことを前提に心身を鍛える機会を得たことが非常に得難い体験だったと感じているからに他ならない。

また、復帰して数多くの幹部自衛官の一人として埋没するのではなく、海上自衛隊に好意を持った中途退職者の視点で援護射撃をした方がよほど役に立つのかもしれないと考えを新たにしたからでもある。

記事のまとめ

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1年ぶりのブログ更新となりました。

もし自衛隊に復帰していたらこのブログは

『自衛隊に復帰!フェニックス!!』(仮題)

という記事を最後に消滅させる予定でした(笑)

しかし、縁あって(縁なく?)消滅を免れ、引き続き恥多き過去をさらし続けることに相成りました。

 

この1年間に思うところも多々あり、今後もポツリポツリと記事を更新していくつもりです。

(このポツリポツリの間隔が曲者ですが・・・)

また、これだけ更新をサボっているにも関わらず、メッセージを頂くことも多く改めて感謝申し上げます。

(現在はコメントはFacebookのみですし、お問合せフォームもメイン画面に載せていないにも関わらず)

必要としている人に必要な時に必要な情報が届けられるようなブログでありたいですね。

 

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