中級水雷の護衛艦実習として、舞鶴の第3護衛隊所属、護衛艦「みねゆき」に乗艦しました。
この時の第3護衛隊司令こそ、私が初めてお仕えした「せんだい」艦長でありまして、水雷を希望するきっかけとなった憧れの上官です。
士官室において中級水雷課程一同の実習開始挨拶を行って退出しようとした時、改めて呼び止められ
「おい通信(当時は通信士でした)元気にしてたか。飲みに行くから着替えて来い」とのこと。
このちょっと強引なところ・・・ステキであります。
また、自分のことを覚えていて下さったことに大変感激しました。
「せんだい」通信士のころ、鹿児島県鹿屋基地での展示訓練に参加するため高須沖に投錨していた時にも、
「おい、通信、走りに行くから着替えて来い」といって、半ば強引に拉致されたことを思い出しました(笑)
当時の私は、甲板士官も兼任しており、とにかくやることが目白押しで独楽鼠のように働いていました。(単に要領が悪くて空回りしていただけですが)
そんな私が「精神的にパンクしないように」というご配慮でジョギングに誘っていただいたようです。
着任以来、忙しくて運動など全くしていなかったので、体力は低下の一途をたどっておりましたし、何より時間が惜しいというのが本音でしたが、艦長命令とあっては仕方ありません。
艦長特別便の内火艇で岸壁に送られ、1時間ほど軽くジョギングした後、色々と話をさせていただきました。
久しぶりに運動したことと、艦長に親しく話を聞いていただいたことで、仕事に追われて強張っていた気持ちがすぅーと楽になるのを感じました。
この時、忙しい時ほど少しでも時間を作って、適度な運動をすることの重要性を学んだ気がします。
叱られることもたくさんありましたが、理不尽に叱られたことは一度としてありませんし、その眼差しの奥には常に愛情を感じていました。
ただし、本当に怒るときがありました。
それは、自己の職責を全うしないばかりか、逃げの姿勢で責任を回避しようとする者に対するときでありました。
話を中級水雷の護衛艦実習に戻したいと思います。
まさに、この実習中に司令の怒りに遭遇することになったのです。
事件の発端は夜間洋上給油作業の艦橋でした。
洋上給油作業は、数ある洋上作業の中でも危険度の高い作業であるといえます。
まして、夜間洋上給油作業ともなると、高度なチームワークは欠かせません。
日頃の訓練によって、チームとしての練度を十分に錬成し臨む必要があるのです。
航海長は、洋上給油作業における近接運動のキーマンです。
受給準備位置から速やかに近接して補給艦と並走状態を確立し、給油中は一定の距離を保って艦位を保持する責務があります。
通常、準備位置に付くまでに航海長は艦長に運動の意図を説明することが慣例とされています。
「発動になりましたら速力〇〇とし、〇〇メートル前で減速します」といった感じです。(ちょっと記憶が・・・)
ですがこの時、航海長はいつまでたってもその運動の意図を報告しようとしなかったのです。
夜間ということで、極度の緊張状態にあったのでしょうか?
少なくとも全く初めての洋上給油ではなかったはずです。(少なくとも着任したばかりではなかったので)
艦長は非常に温和な方でしたが、さすがに我慢の限界になり、
「航海長、発動したらどういう運動するんだ?」と助け舟を出されました。
それでも、何も答えようとしない航海長に対し、遂に司令の怒りが爆発します。
「航海長、どういう運動するのかと聞かれているだろう!胸算を示せ!」
今にして思えば、
「ここで助け舟を出すべきだったかもしれない」
と後悔しています。(航海長とは以前の任務ガスタービン課程で面識があった)
ですが、あくまでも実習として乗り組んでいる『お客さん』にすぎないので、あまり差し出がましい行為はどうかと躊躇したのです。
また、この叱責は正しく航海長の教育が目的とされていることが分かっていたからでもあります。
ただ、将来自分が砲雷長として勤務するとき同じ状況に遭遇したならば(洋上給油作業において砲雷長は艦作業指揮官として艦橋にいます)何らかのフォローするべきだろうと感じました。
中級水雷課程修業後は、今までのように自分の術科練度向上だけではなく、士官室ひいては艦全体のことを意識して勤務する必要性を改めて感じた実習となりました。
司令の気持ちはわかりますが、そこはやっぱり個艦の問題なので、難しいですね。
士レベルの話なら、口だけでなく手足が出そうですが、航海長ならそうも行かないでしょうし。
雷蔵 様
こういう状況での艦長の立ち回りって難しいと思います。
航海長の自主性を期待しつつも、指導するタイミングを間違えないように配慮が必要だからです。
単艦行動中であれば何の問題もないのでしょうが、司令護衛艦となるとスタッフ的な要素も求められますので、そのバランス感覚は非常に大事な要素だと思っていました。