stairs-446677_640

 

『幹部にだけはなりたくない!!!』

これが海上自衛隊の艦艇部隊に勤務する海曹士の標準的な考え、かつ切実な願いです。

少なくとも、私の在職中に直属の部下から

「幹部になりたいです!」

という言葉を聞いたことは一度もありません。(キッパリ!)

もっとも最近では、社会全般にこういう風潮(昇任意欲の低下)があるようなので、特別に変わったことではないのかもしれません。

それでも、組織にとって致命的な事象であることに違いはないと思います。

念のために申しあげておきますが、自らの強い意志によって幹部昇任を選択する海曹士もちゃんと存在していることは言うまでもありません。

 

とりあえず、多数派である昇任不希望の実態について説明します。

総括してしまえば、彼らの目に映る艦艇幹部(特に初級幹部)が、仕事に追われて大変そうだということでしょう。

自分たちが幹部になった場合のサンプル(未来像)があまりにも魅力がないのです。

いつも上司から怒られながら、朝から晩まで仕事に駆けずり回り、果ては部下の海曹士からも不平不満をいわれるような存在にはなりたくないというのが本音でしょう。

休みが取れないだけでなく、仕事が終わらないため泊まり込み(この点に関しては宿泊設備が完璧なので問題ない)、挙句の果てには休日に『正当な理由のない出勤』までして仕事をするのです。

それでいて、給料はさほど変わらないとなれば、普通に考えれば誰も幹部なりたいとは思わないでしょう。

 

Sponsored Link

 

部内から幹部になるには、B幹部(部内課程)、C幹部(予定者課程)が一般的です。(もちろん、年齢制限等の基準を満たせばA幹部の受験も可能)

このうちC幹部と呼ばれる人たちは、准海尉及び海曹長から選抜されるので、通称『とっちゃん幹候』と呼ばれています。

部隊では先任海曹(CPO)として海曹士社会の頂点に君臨していたにも関わらず、幹部候補生学校に収監される入校するや否や、自分の息子のような年齢の幹事付き(赤鬼、青鬼)から毎日怒鳴りつけられる生活を送る羽目になります。(1992年当時の事情です。現在は不明)

江田島の幹部候補生学校生活は、私のように最初からそこしか知らない者にとっては、

「あーこれが自衛隊の学校かぁ」

という程度の認識しかないのですが、部隊勤務を経験した海曹士にとっては、とっても嫌な場所の様です。(私はどちらかというと、幹部候補生学校最高!という少数派なので、皆が嫌がる気持ちが全く理解できていませんでした)

このギャップが激しいだけに、特にC幹部の希望者は少ないのです。

 

とはいえ、初級幹部の員数的なニーズがある以上、毎年一定数のC幹部候補生が部隊から徴集されてきます。(通称江田島送りと呼ばれていました)

特に、海上自衛隊生徒や一般曹候補学生出身者は、若くして3等海曹に昇任しているため海曹長へ上り詰める期間も短く、B幹部やC幹部へならざるを得ない状況に陥ることも多いようです。

「定年まで10年以上もあるのに、ずっとCPOに居るつもりか」

「後輩にCPOの席を空けてやれよ」

などと、時に厳しく叱咤され、時に甘くささやかれて、ついには幹部となることを選択するようです。

 

私が一番大きな問題だと認識しているのは、せっかく培ってきたキャリア(技術や技能)が、初級幹部の職務にはあまり必要とされておらず、むしろ雑用的な業務に忙殺されてしまうという事実です。

A幹部は、幹部としてはもちろん社会人としても新人なので、そういう雑用も必要不可欠な下積みとして大いに経験するべきだと考えています。

ここでもし、そういう下積み経験を怠って昇任を重ねてゆくと、いびつな幹部になってしまうと思うからです。

しかし、部内出身幹部に対しては、もっと海曹時代のキャリアを生かせるような待遇にならないものかと考えていました。

今まで自分の築いてきたキャリアを一旦全部白紙に戻されることに比べ、報われることが少なすぎる。

そこに、昇任意欲の低迷というねじれが生じるのではないでしょうか。

 

Sponsored Link