忙しい勤務

 

初めての部隊勤務となった「せんだい」通信士時代のことは実に鮮明な記憶として残っていることが多いと思います。

見るもの聞くこと全てが初めてであることから、体当たりで全力を尽くしたからでしょう。

それとも、私の祖母がその晩年によく女学生時代の話をしていたような現象と同じなのでしょうか(笑)

 

『通信士』という職名を聞いた限りでは

「通信に関する補助的業務を担当しているのだろうなぁ」

と想像される読者様も多いと思います。

もちろん、文字通り通信に関する業務も多いのですが、航海中の艦橋勤務はどちらかというと『航海士』的な性格が強いといえます。

ちなみに私の通信士(航海士)としての艦橋勤務は常にドタバタとしたものでした。

練習艦隊でサボっていたツケ(必要な知識の欠如)が主な原因なのですが、他にも基礎的な思考方法に問題があったようです。

 

なお、今回の記事も初めて部隊勤務となった初級幹部向けの内容となっています。

『護衛艦乗り』というのは昔ながらの『徒弟教育』の部分が色濃く残っているので、先輩たちはなかなか口では教えてくれないものです。

「俺の背中を見て技を盗め!」って感じですね。

(背中のイメージを表現してみました。実際の幹部自衛官は鉢巻もしていませんし、葉っぱもくわえていません)

俺の背中を見ろ

引用元:http://blogs.yahoo.co.jp/kouki_112693/36741752.html

 

しかし、どれだけ背中を凝視しても何が書いているのかさっぱり分からないので(失礼!)、今更当たり前のことであってもこうして文章として残してみようと思いました。

裏技(というほど大層なものでもないけど)もあるのでお楽しみに!

(一般読者の皆様にとって難解だと思われる専門用語には極力注釈を付けています)

 

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艦橋でドタバタしてしまう理由とは

ズバリ次に起こることを正確に予測できていないからです(笑)

航海中の通信士(副直士官、航海指揮官付)がこなすべきルーティーンワークは多岐にわたっています。

海図への艦位記録、艦内号令管制、各種通信機器に対する応答、当直士官(航海指揮官)に対する各種リコメンド(艦隊運動、行動予定に対する遅れ進み)等々、数えればキリがありません。

しかし、少し慣れてくれば次に何が起こるか予測できるようになるので、艦橋勤務は加速度的に楽になってきます。

 

ロールプレイングゲームに例えるならば

『通信士はLV1からLV2になった』

『通信士は副直士官業務を覚えた』

と実感できる瞬間が必ずやってきます(笑)

一つのことができるようになれば、その分余裕ができるので周囲を冷静に見渡すことができるようになるのです。

 

そのために必要なのは『イメージトレーニング』です。

当直交代する前に自分の立直時間中に起こるであろう事柄を全て脳内シミュレーションすることです。

日課の施行、陣形変換の有無、下令が予想される信号等について一つづつ丁寧にイメージするのです。

最初は時間がかかるかもしれませんが、慣れれば5分で完全シミュレーションすることができます。

小さいことを一つづつ完璧にマスターすることによって根拠のある自信を積み上げていきましょう。

 

今この瞬間何を伝えるべきか(報告を受ける上官の目線)

人間は自分が自信を持ってできることがあると、ついついそれを報告したくなります。

(しかも自信があるから、いつもより大きな声でね)

でも、報告の前にちょっと待って下さい。

今、当直士官が欲している情報は貴官が報告しようとしている内容と一致していますか?

ルーティーンな報告はもちろん大切なことですし、決して疎かにして良いものではありませんが、状況に応じて優先順序は変わってきます。

(声の大きさもね。海上自衛隊の『元気があってよろしい』という文化は好きですが)

そこを正確に読み取って臨機応変に優先順序を変えることができれば、最早当直士官の資格を十分に備えていることになります。

少し勤務に慣れてきた時こそ

『当直士官は今何を欲しているか?』

について考える癖をつけていきましょう。

 

例えば『艦橋偏移量』について(電子チャート未搭載艦限定)

艦位を測定し海図に記録することで、自艦の現在位置を正確に把握することは航海の基本でありかつ最重要ともいえるものです。

母港を出港し港外へ向かう航路では、主として陸測によって艦位を決定し偏移量(予定した航路に対するズレ)を報告することになります。

貴官が一生懸命に陸測を行って報告した偏移量に対し当直士官が

「了解」

といってくれれば一安心ですが

「ん?・・・もう一回やり直してみろ」

という言葉や無言の態度(あるいは酸っぱい表情)で示したならば、その報告は間違っているということです。

では、当直士官はどうやって偏移量を把握できているのでしょうか?

遠洋練習航海実習にしっかり取り組んできた貴官にはすぐに分かると思いますが、私のように『ボヤー』っとしていて肝心なことを華麗にスルーしてしまった人はもう一度思い出して欲しいと思います。

答えは

『向視目標と現針路との関係』

ですね。

 

航海長は母港を出港して港外に出るまでの全ての航路について向視目標(航路航行する際に正面に見るべき顕著な物標)や避険線(艦の喫水と水深によって決定される安全航行のための境界線)を書き込んだミニチャートを用意しているハズです。

(最近の電子チャート搭載艦はもしかすると準備していないかも?)

当直士官(航海長)は自分の決めた向視目標が見える方位によって、予定コースの左右どちらに偏移しているか把握しているのです。

遅ればせながらこの事実に改めて気がついた私は、陸測の過程で反対舷の物標を測定するフリをしながら操舵装置の針路と正面の物標の関係を比較して、自分の測定結果に確信を得てから報告していました。

あくまでも陸測を入れた後にダブルチェックとして使って下さいね(笑)

私が「ちくま」航海長の時にこの裏技を通信士に教えたら、常に操舵員の真後ろから偏移量の報告が上がるようになり、振り返って目が合うと『ニヤリ』と笑っていました。

(あの『ニヤリ』の意味は!?)

 

記事のまとめ

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今回は通信士(副直士官)の艦橋勤務を例にお話ししましたが、これはその後の勤務全般に関して応用できる思考方法です。

貴官が当直士官になった時には

「今、艦長はどういう報告を求めているだろう」

という視点に置き換えて見れば、必然的に艦長からの信頼を勝ち取ることが可能になるでしょう。

次回は上司から信頼される喜びと部下に仕事を任せる度量について紹介したいと思います。

(今回の記事はなんだか(笑)が多かったように思いますが、やってる当時は全然(笑)どころの話ではありませんでした)

 

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