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海上自衛隊のベテラン海曹や准海尉の中には『術科の神様』と呼ばれる人々が存在します。

術科とは自分の専門とする特技(1分隊でいえば運用、射撃、射管、水測、魚雷などでそれぞれが装備機器ごとに更に細分化される)のことをいいます。

海曹はこの術科のスペシャリスト(専門職)として勤務経験を積んでいくため、職人としての道を究めて第一人者すなわち神様となる人が出てきます。

 

もちろん、ただ漫然と勤務していて到達できるものではなく、その背景には本人のたゆまぬ努力や旺盛な研究心があることを見逃してはいけません。

古来より日本という国はゼネラリスト(総合職)よりもスペシャリスト(専門職)を輩出することを得意とする土壌があるように感じます。

自らの手を汚してモノづくりすることを美徳する気風は他国に自慢できる日本の特質だといえるでしょう。

海上自衛隊の術科の神様もこういう土壌があってこそ生まれてくるのだと思います。

 

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術科の神様に対する提言

このことを十分に理解し敬意を払った上で、あえてアンチテーゼを唱えてみたいと思います。

術科の神様と呼ばれる人の存在は、本人の意思に関わらず他の者に強烈な依存心を与えてしまいます。

「あの人(神様)が、そういうのなら間違いないだろう」

神様の部下だけでなく、上司でさえも盲信してしまうことがあるのです。

もちろん、豊富な経験に基づく意見はほとんどが正論かつ真に取るべき方策であることが多いでしょう。

しかし、神様の意見というだけで検討する余地もなく採用してしまう危険性を含んでいることは否定できない事実なのです。

 

また、術科の神様と呼ばれるまでになれば、先任海曹(CPO)もしくは准海尉であるでしょう。

つまり定年退職や幹部への昇任によって神様が不在になる日が必ずやってくるのです。

神様が不在になった時、次席との実力差がそのまま艦の戦闘力低下に直結してしまいます。

これこそが日本伝統の職人文化が抱える最大の弱点ではないでしょうか。

 

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もちろんこれは今に始まったことでなく、先の大戦でターニングポイントになったミッドウェー海戦において多くのベテランパイロットを失った帝国海軍の事例をみても明らかであります。

後に続く者を途絶えさせることなく育てることこそ、最も重要な課題だといえるでしょう。

神様にはその地位に甘んじることなく、一歩進んで次席を自分と同じステージに引き上げて頂きたいと切に思います。

もちろん次席は3席を、3席は4席を同じように自分のレベルまで引き挙げることが求められます。

これによってはじめて術科の伝統がスパイラルに伝えられてゆくのだと考えます。

幹部や曹士を問わず実際の戦闘においては、上位者が倒れたらすぐさま次席が代わりを務める仕組みになっているのですから、自分が上席者の職務を代行する能力を涵養することは必須事項なのです。

 

幹部の責任

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神様を作るもう一つの要因は人事権を持つ幹部の責任でもあります。

幹部の在任期間は1~2年であることが多く、術科の神様の存在は非常にかけがえのない宝物なのです。

そこで、何を考えるかというと

「自分の在任期間中は絶対に転任させたくない」

ということです。

これが囲い込みと呼ばれる弊害で、優秀な者ほどこの被害にさらされることになります。

この結果、その艦特有の個癖まで熟知するに至り神様へと昇華するのですが・・・

 

将来神様に昇華できる優秀な人材こそ、標準的な転任サイクルに従って放出し、その良い影響を受けることができる裾野を広げるべきだと考えます。

個艦の事情だけにとらわれず、海上自衛隊全体の術科能力向上のためにも是非とも分隊長の英断が必要ではないでしょうか。

部外者が意見するのはおこがましいとは思いますが、部外者になったからこそ余計にそう思うのです。

 

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