thumb-489516_640

 

私が護衛艦の各配置において勤務経験してきた中で『カッコいい』と感じる瞬間がいくつかあります。

今回はそんなカッコいい瞬間『出港編』を紹介します。

ところで、前回投稿した記事『護衛艦内外の音について』の中には肝心なものが欠落しておりました。

それは『ラッパの音』に関する内容だったのですが、お気づきになられましたでしょうか?

今回の記事の中でこのラッパに関しても紹介していきたいと思います。

 

Sponsored Link

 

出港準備から艦橋ミーティング

articulated-male-818202_640

 

護衛艦が停泊状態から航海状態に変わる瞬間、つまり静から動への移行となる出港は単なる作業ではなく『厳粛な儀式』でもあります。

この出港に臨む艦長の姿は、男の私から見ても痺れるほどにカッコいいものでした。

では、早速この出港(岸壁係留バージョン)の一場面を切り取っていきましょう。

 

護衛艦が定時に出港するためには、時間を逆算して出港準備作業に取り掛かる必要があります。

「出港準備、前中後部指揮官艦橋」

の号令とともに甲板作業員は係留策をダブルからシングルにしていきます。

(通常、係留策は同じ場所から2本づつ岸壁又は僚艦のビットにかけて係留している)

それと並行して艦橋では、出港作業に関連した手順や注意事項のミーティングを行っているのです。

 

具体的には係留策を外す順番、港内の状況(外力や他船舶の動静等)、通常とは異なる特殊な事情(実習員が乗艦している等)などに関して砲雷長から各部指揮官に示達する形で進行します。

一通りの示達と確認が終了した時点で、艦長から艦の引き出しや操艦に関するインテンション(意図)が示されます。

各部指揮官はこの情報をそれぞれの配置に持ち帰り、指揮下の甲板作業員を集合させて示達することになります。

艦長から作業員に至るまで意思の疎通を徹底させることは非常に重要なことで、例えば艦が艦長の示したインテンションとは違う動きをしていた場合に

「何か異変が起こっている」

と各員が感じなければならないのです。

それは風、波、うねりなど外力によるものかもしれませんし、あるいは港内外から現れる漁船やフェリーなど行き合い船の影響かもしれません。

 

艦橋は『今どうしてこのような動きをしているのか』について各部に状況を伝える必要がありますし、各部も疑問を感じたら速やかに艦橋に問合わせる必要があります。

この辺りの連携が上手く確立されている艦は、血液や神経が隅々まで行き届いた1つの巨大な生き物のようです。

逆に、艦橋が各部への状況説明を怠り、各部も

「どうせ、上に報告しても・・・」

という意識に陥れば頭と体がバラバラに動いているようなものですから、何をやってもチグハグな動きになってしまうでしょう。

こういう艦はギクシャクとつまづきながら出港していくようで傍から見ていても恰好の悪いものです。

 

引き出し開始から出港まで

14

参照元:http://www.mod.go.jp/msdf/formal/jmp/201407.html

 

さて、話を元に戻しまして

出港準備が完了し航海当番を配置に就け、曳船舫を取ったらいよいよ引き出しを開始します。

通常、護衛艦のような大型艦は曳船(タグボート)を使用して岸壁から一定の距離を引き出し、周囲がクリアーになった時点で自艦の推進器を使用して出港します。

引き出しが開始されると各部の斜め舫(2,3,4,5番)や後部横舫(6番)を離して取り込んでいきます。

後部(6番)を舷内に取り込んだら、自艦の推進器が使用可能となります。(舫が水中にある間はスクリューに巻き込む恐れがある)

このため、特に外力の影響など特殊な事情がない限りは、前部の横舫(1番)を残して艦の引き出し速度に合わせて舫を伸ばしていきます。

何か問題が発生すれば、舫と曳船で現在位置を保って動きを止める必要があるためにこのような処置をとっているのです。

 

ここまでの条件が整ったら、

艦長:「ラッパ用意」

と口頭もしくは目線で合図を送り、司令が乗艦中であれば

艦長:「司令、出港します」

と敬礼します。

司令が了解されると、

艦長:「出港用意!」

信号員:出港ラッパ吹奏『パパラパ、パパラパ、パパラパララッパラ~』

(音を表記するのは意外と難しい。信号員の皆さん、もっと適切な表記方法があればコメント下さい!)

艦内マイク:「しゅっこうよーーーーーいっ」(勢いが重要!)

砲雷長:「1番離せ~」(艦橋伝令、手先信号を併用)

前部指揮官:「舫離せ~」(岸壁に向かって、手先信号併用)

最後の舫が離れた瞬間が『出港』となります。(航泊日誌記載要領)

艦長:「曳船ありがとう」

曳船指揮官(船務長):「曳船使用終わり。YT〇〇、曳船舫離せ)

艦長:「行進の機械を使う。両舷前進〇速」

各部甲板作業員は舫を舷内に取り込んだところで一旦作業を中止、整列した状態で港外へ向かう。

 

記事のまとめ

Sponsored Link

 

いかがだったでしょうか?

細部について書ききれず省略している部分もありますが、このような一連の流れによって護衛艦は出港していきます。

特に艦長がラッパを用意させてから行進を起こして港外に向かうまでの一連のセリフや行動が本当にカッコいいのです。

また、出港ラッパが澄んだ音色で勢いよく吹奏されると

「よーし、訓練頑張るぞ~!」

と気持ちが高揚するのを感じます。

逆に、この出港ラッパがかすれたり、詰まったりすると乗員一同

「ガクッ」

ときてしまうのも事実です。

出港ラッパを担当する航海科員もそこは十分に承知していますので、この重責に応えるべく出港当日はギリギリまでマウスピースによる練習に余念がありません。

各人のやるべき仕事がビシッと決まって文字通りスマートに出港できた時、自分自身も護衛艦の細胞の一部であるかのような一体感を感じていました。

このような感覚が記憶に残っているからこそ、出港は単なる作業ではなく『厳粛な儀式』という認識に繋がっているのかもしれませんね。

 

Sponsored Link