海上自衛隊、護衛艦、運動

 

護衛艦勤務は狭いスペースに仕事及び生活機能が集約されているため、航海中はどうしても体を動かすことが少なくなってしまいます。

寝室を自宅、配置場所を職場と置き換えて考えれば、いわゆる通勤時間は数分以内でしかありません。

(自由がないということの裏返しなのですが、個人的には満員電車ですし詰めになって輸送されるよりも余程快適だと感じていました)

また、一度自分の配置に就くと行動範囲はせいぜい目に見える範囲に留まってしまいます。

そんな勤務環境で食事を3食キッチリ(どころか過剰に)摂取すれば、結果は火を見るよりも明らかです。

今回は、これらの問題をどのように解決しているのかについてお話しします。

 

Sponsored Link

 

艦上体育の必要性が高まった背景

今から二十年ほど前に艦艇乗員の健康状態に関する危機意識が高まった時期がありました。

理由は艦艇乗員に潜在的な成人病予備軍が相当数いたからでしょう。

その時期がちょうど「せんだい」通信士と「しまかぜ」機関士の時代と重なっていて、そのどちらも係士官として『体育係士官』を拝命していたため、海上自衛隊上層部の意識の変化が施策として反映される過程を肌で敏感に感じ、強烈な印象として残っているのです。

 

艦艇勤務に就業するためには健康状態の基準を満たす必要があり、これを逸脱するといわゆる『艦艇不適』というレッテルが張られ陸上勤務を余儀なくされます。

一般的には厳しい勤務環境にある艦艇勤務が敬遠される傾向にあるのは事実ですが、主として経済的な理由によって艦艇勤務を熱望する者も多いというのもまた事実です。

実際に艦艇勤務になれば『乗組手当』『航海手当』などに代表される諸手当がつくので、月給ベースでみても陸上勤務者とはかなりの所得差が生じます。

これが年間ベース、生涯ベースとなればその格差は更に拡大することになります。

もちろん、高い所得を得る代わりに失うものも大きいのは言うまでもありません。

このような事情もあって

「どうしても艦艇勤務を継続したい」

という希望者も相当数存在するものなのです。

 

そういった艦艇勤務熱望者が健康上の理由で陸上勤務を余儀なくされることは、本人にとってはもちろん組織としても得策ではありません。

平成7年には事実上の4食目というべき『夜食』が廃止され(その後、深夜立直者のみ再提供されることになるが)、『艦上体育』の時間を確保するように義務付けられていきます。

 

護衛艦の艦上体育とは?

艦上体育の時間帯は午後のイベント訓練が終了してから夕食までの間に設定されることがほとんどです。

つまり、この時間帯で運動、入浴、洗濯、食事などをこなすことが必要になります。

護衛艦は24時間体制で運航されているわけですから、この時間帯に当直にあたる日は運動はできないということです。

 

最もポピュラーな運動方法はジョギングでしょう。

護衛艦の狭いデッキ上を一方通行(衝突防止のため)でグルグルと走ることになります。

これは毎日『右回り』『左回り』の日を入れ替えて、片方の足に負担をかけないように工夫されています。

洋上を航行する護衛艦のデッキ上をジョギングするのはなかなか気分が良いもので、精神衛生上も効果が高いと感じます。

ただし、動揺する護衛艦の鉄板デッキ上を無意識にバランスを取りながら走ることは足腰に負担をかけるようで、私はこれで膝を痛めてしまいました。

ということでやむなくウォーキングにとどめることも少なくありませんでした。

 

省スペースでの筋トレとストレッチ

先に紹介したように、本格的に艦上体育に参加しようとしても当直勤務時間帯との兼ね合いもあるので思うようにいかないというジレンマを抱えていました。

そこで、もっと手軽にできる運動として筋トレやストレッチを行うことになります。

近年は護衛艦の大型化やトレーニング器具の設置によって筋力トレーニングも容易に実施できるようになったと聞いていますが、以前は個人レベルで筋トレやストレッチを行っていました。

ここでは私が実施していた省スペースでの運動法を紹介します。

 

チューブトレーニング

必要となる運動用のチューブは100均などの健康コーナーに行けば簡単に見つけることができると思います。

もちろん、スポーツ店に行けばもっとしっかりした商品を購入することが可能ですので、個人の思い入れに応じて準備すれば良いでしょう。

主として上半身、特に腕や肩周りの筋トレやストレッチに活用していました。

特に普段は鍛えにくいインナーマッスルと呼ばれる体の内側の筋肉を強化できるので強くお勧めします。

具体的なトレーニング方法は『チューブトレーニング』でググればいくらでも見つけることができると思いますが、実際にチューブを引っ張ったり保持したりして自分の筋肉のどこに負荷がかかっているかを意識しながらトレーニングすることがポイントです。

これは現在でも習慣として定着していて、パソコンを使用していると避けられない肩こりを軽減するために常時手元にチューブを置いています。

 

かかと上下運動

艦橋などで立ちっぱなしで勤務していると、足の疲れ方は想像を絶するものがあります(笑)

これは護衛艦の艦橋が鉄板の上にタイルを引いてあるだけという構造になっていることも一因のようです。

護衛艦勤務を経験した後で掃海艇部隊に配属となった同期の話では

「掃海艇は木造なのでヒザと腰に優しい」

と言っていましたので、船体素材と疲労感に一定の因果関係系があるのは間違いないでしょう。

足の中でも特に疲労感を覚えるのは『ふくらはぎ』だと思います。

これは立ちっぱなしで血流が悪くなっていることも原因の一つです。

血流を良くするためにはふくらはぎ(ヒラメ筋)を鍛えて、筋肉の強い力で血液を心臓に送り返してやればいいということです。

ふくらはぎが『第二の心臓』と呼ばれる由縁ですね。

ということで、日中の明るい時間帯はさすがに自重していましたが、夜間の艦橋勤務においてはひたすら『かかと上下運動』を実施していました。

後ろにいる操舵員など艦橋当直員は

「また当直士官(航海指揮官)が上下に揺れてるなぁ」

と思っていたことでしょう(笑)

 

スクワット

同じく下半身のトレーニングですが、スクワットを行う理由はズバリ『ヒザ痛の軽減』にあります。

鉄板上での生活は確実にヒザの負担を高めるものです。

そこで、何も対策していないと運動不足や加齢によってヒザを支える筋肉が衰えてきて『ヒザ痛』を引き起こす原因となるのです。

これを防止するために取り入れていたのが『スクワット』で、特にヒザ上の大腿四頭筋を鍛えることができるので効果的です。

また、太腿の筋肉を鍛えることは体の基礎代謝を高める効果があるのでダイエット(太りにくい体質作り)にも効果的です。

ただし、鍛えた分だけ筋肉は太くなるので、私はいまだに『スキニージーンズ』なるものを着用することのできない下半身になっています(笑)

 

腹筋及び背筋トレーニング

上半身と下半身は紹介しましたので、最後に体幹部分である腹筋と背筋についてもお話しします。

護衛艦の後部甲板や航空機格納庫などでマットを敷いて実施するのが一般的ですが、私は自分のベッド上で行うのがほとんどでした。

ポイントは足を上げた状態で固定して行うことにあります。

(腰痛防止とトレーニング効果の向上のため)

私は前出のチューブを使用してベッドのフレームに足首を固定して代用していました。

自宅などで行う場合は椅子やソファなどを利用して足を上げてもいいと思います。

腹筋も上部や下部など鍛えたい部位に負荷をかけることを意識しながらトレーニングすると良いでしょう。

なので、必ずしも上まで起き上る必要はありません。

(ベッドの上では天井高も低いですからね)

なお、腹筋を行ったら必ずバランスよく背筋も鍛えるようにして下さい。

 

記事のまとめ

Sponsored Link

 

いかがだったでしょうか。

現役当時は概ねこのような感じで運動を行って、最低限の筋力を保持するように心掛けていました。

若いうちは運動をサボっていてもそれがすぐさま健康診断の数値に現れることはないかもしれませんが、現時点のトレーニングは10年後20年後の自分を助けてくれるものです。

「メンドクサイなぁ」

「運動するくらいなら寝たいなぁ」

という気持ちに打ち勝って積極的に体を動かしたいものです。

 

Sponsored Link