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2005年3月25日

とうとうこの日がやって来ました。

1992年3月25日に幹部候補生学校の門をくぐってから丁度13年が経過するその日、ついに海上自衛隊を退官することになりました。

 

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当日の朝、退官の辞令書をもらうため総監室を訪れました。

当日付で自衛官ではなくなっているので長年着用した制服ではなく、スーツ姿で辞令書交付の儀式に臨みます。

総監室前で順番を待っていると、いつも総監への面会を取り次いでくれる副官付(WAVEさんと事務官さん)から

「業務主任って、制服よりもスーツの方が似合いますね」

と声をかけられ、なんだか微妙な気持ちになりました。

「自衛官らしくない」

とは現役時代を通じてよく言われていたことだからです。

結局最後まで『自衛官らしさ』に染まれなかったということかもしれません。

しかし、それが自分の持ち味だと思っていましたので、最高の褒め言葉として受け取りました。

 

辞令書に修正痕が

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総監室には文書の決済を頂くために何度も訪れたことがありますが、儀式のためという特別なシチュエーションなので緊張しました。

そして、いざ退官の辞令書を渡そうとした総監がある異変に気づかれました。

なんと名前の一部が修正テープで修正されていたのです。(現存)

総監は勿体ないことに私に頭を下げられて

「松吉君、人生の重要な節目に大変失礼なことをした。後で必ずきちんとしたものを届けさせるので、今はこの辞令書で式を進めてもいいかな」

と大変丁寧な言葉をかけて頂きました。(当日中に届けて頂きました)

 

それは海上自衛隊の3等海佐にではなく、当日付で既に民間人となった私に対する節度というべきものだったと思います。

感動で胸が熱くなった私は

「この辞令書で十分です」

というのが精一杯でした。

このこと一つをとってみても、海上自衛隊の将官とは細心の気配りができる人格者なのだと感銘を受けました。

辞令書を受け取った後、退官記念に総監のオリジナルタイピンセットを頂き、しっかりと握手して頂いたその手は大きくて暖かかったです。

この期に及んで自分が部下を見送る時、しっかり気持ちを込めて送り出すことができていただろうかという反省の気持ちが湧いてきました。

最後の印象は本当に重要だと思います。

こういうことがあったからこそ、今でも変わらず海上自衛隊のことを大好きでいられるのでしょう。

 

辞令書に関してですが、当時は防衛省ではなく防衛庁でしたので時の防衛庁長官である大野功統長官の名によって発令されていました。

今更ながら3等海佐の退職は防衛庁人事だったこと認識しました。

海士長が任期満了で退官する時でさえ、その説明に多大の労力を要した経験があるだけに、今回の私の退官(幹部自衛官の退官)に関しては相当な労力をおかけしたと思います。

実際に報告や手続きをされた上司の皆様に対し改めて感謝申し上げます。

 

自戒の鎖が解き放たれる

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お立ち台の上で自分の紹介文が読まれれるのを聞きながら、自分を縛っていた見えない鎖が一つづつ切り離されていく感覚を覚えていました。

それは幹部自衛官として自分を律してきた鎖だったのでしょう。

『幹部自衛官かくあるべき』という太くて重い鎖でした。

『帽触れ』の号令とともに振るべき帽子を持たない私は頭を下げる『10度の敬礼』を行い、『帽元へ』の号令で再び頭を上げると同時に最後の鎖が切れたことを実感しました。

目の前には春先のどんより曇った大湊の空がどこまでも広がっていました。

 

あとがき

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これを持ちまして、私の13年間にわたる海上自衛官の物語は一旦終了となります。

約8か月に渡ってお付き合いいただきました読者の皆様には、この場をお借りして改めてお礼申し上げます。

物語を書くにあたっては、当時の日記に基づき極力リアルに思考を再現しています。

ですので、改めて振り返ってみれば候補生学校時代や実習幹部時代のエピソードは自分でも赤面しそうなほど無知、無見識、無教養と何から何までないない尽くしだったと思います。

後に3等海佐となり、「さわぎり」砲雷長として実習幹部を指導した視点から見ると

「おいおい、お前ヤル気あるんかい」

と突っ込みたくなるような候補生であり実習幹部でした(笑)

それでも上司、同僚、同期、部下に支えられて、なんとか13年間の自衛隊生活を全うできたことは、自分の人生にとってかけがえのない財産だと感じています。

 

また、このブログを読んで少しでも海上自衛隊に興味を持っていただけたとしたら、これに過ぎる喜びはありません。

若い人が国防に興味を持ってくれたり、現在目が回るほど忙しいと感じている初中級幹部の皆さんに少しでも参考となる記事があったとしたら、それこそが私の本望です。

現代は守るべき国があるということの幸せを感じることが難しい時代なのかもしれません。

しかし、少しでもそういうことに思いをはせるきっかけになったとすれば、私も自衛隊に少しだけ恩返しができたことになります。

 

今後は不定期に(今までもそうでしたが)、物語の外伝的なエピソード記事や既にリクエストを頂いている記事を書いたりして行きたいと思っています。

お時間が許すようであれば時々覗いてみてください。

それでは、ひとまずはこれにて失礼いたします。

 

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