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赴任先への航空券の手配は自分自身で行いました。

絶対に守らなければならない条件は『正規料金で購入して、半券を提出すること』で、それ以外はどんなルートでどこの航空会社を利用しても良いとされていました。

 

私が選択した航空会社はシンガポール航空で、理由はチャンギ空港でトランジットできるからです。

ご存知の方も多いと思いますが、毎年世界空港ランキングで常に上位を占めるこの空港は、半日程度のトランジットなどあっという間に感じるほど娯楽施設が充実しているからです。

 

まずは7時間かけて、成田空港からチャンギ空港に到着しました。

しかし、あいにく日本円は1万円札しかなく、米ドルも少額しか持ち合わせていなかったので、限定的な楽しみとなりました。(なぜか、クレジットカードも持参していなかった)

とりあえずトランジットホテルでシャワーを浴びると、手持ち金額は更に減少しました。

 

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この所持金で何か食べられるものを探した結果、ヌードル専門店を発見。

麺とスープの種類を選んで、後は好みの具材をトッピングするというタイプの店で、これなら予算内で済みそうです。

私:「この卵麺とオリジナルスープを一つ」

店:「トッピングは?」

私:「トッピングはいらないよ。お金ないから。あっスープ多めでね」

店:「えーお前、日本人だろ?何で金持ってないんだ?このチキンをトッピングしろよ。美味しいぞ!」

私:「いや、金持ってない日本人だっているよ(涙)」

店員同士:「あの日本人金持ってないんだって!(ヒソヒソ)」

となんだか侘しい食事をしたことを思い出します。(結果、話のネタとしてはおいしかった)

 

そんなこんなでチャンギ空港でトランジットを楽しんだ後、ようやくドバイ空港に到着しました。(この区間も7時間程度だったと思います)

予想外に飛行機は混んでいて、エコノミークラスの長旅はかなり堪えました。

バザール買付のハイシーズンということで、私の隣には恰幅の良いアラブ人女性(推定60歳)が陣取っていて、自分のシートの中には納まりきれず、私のシートに領空侵犯していたからです。

 

当時の私の階級(1等海尉)では、エコノミー正規航空券の支給という規定だったのです。

格安航空券を使用すれば、もっと安い金額でビジネスクラスが使えるはずですが、あくまでも正規旅券を購入し、フライト終了後その半券を提出して清算することが原則でしたのでやむを得ません。

旅行会社で対応してくれた係の人も、

「格安チケットにすれば、ビジネスにしてもおつりがくるのに・・・」

と不思議そうでした。

隣のアラブ人のおばちゃんに押しつぶされながら、

「あぁ、ビジネスだったらどんなに楽だったことか・・・」

とひたすら到着を待ち続けました。

 

ドバイ到着後は現地連絡官の方がエスコートしてくれて、港に送っていただきました。

しかし、着任予定の護衛艦「さわぎり」は気象状況不良のため港外で待機中でした。

仕方なく港の片隅にある掘っ建て小屋で待機することになったのですが、外気温は40度近く、小屋の中も日陰とはいえ蒸し風呂状態です。

結果的にはこの蒸し風呂に、朝6時から夜8時まで放置されることになります。

着任のため礼装(白の詰襟)を着たままで・・・

肝心の「さわぎり」が天候は回復したものの、今度は曳船手配の不備が発生し、入港は翌日に延期されたからです。

 

夜になって、岸壁入港中であった第3護衛隊群「はるな」の幹部が

「そういえば、第2護衛隊の隊付が着任する予定じゃなかったか?」

と気づいてくれて、艦に呼んでくれました。

その日初めての食事を頂き、寝床を用意してもらいました。

地獄に仏とは正にこういうことをいうのでしょう。

この時点で、肉体的にも精神的にもかなり衰弱してしまいました。(恐らく熱中症に近かった)

 

翌朝までに「はるな」で会話したほぼすべての幹部から異口同音に言われたことは、

「2護隊の隊付かぁ・・・司令がちょっとなぁ・・・君、大変だなぁ」というものでした。

それは、これから私がお仕えする第2護隊司令の評判に関するもので、出発前からある程度折込済みではありましたが、改めて何人もの人から言われると不安になってきました。

自分自身そういうストレスには耐性があると思っていたのですが、今となっては認識が甘かったと言わざるをえません。

地獄へのカウントダウンの始まりでした。

 

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