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中級幹部には大人の宿題ともいうべき『幹部課題答申』なるものが存在します。

これは勤務の合間に自己の定めた研究課題を取りまとめ報告するというものです。

 

ちなみに初級幹部には『初級幹部検定』と呼ばれる一斉テストがあります。

これは『初級幹部として勤務する上で必須の知識』を問うものですから、試験範囲はうんざりするほど広いといえます。

しかも結果があまりにもひどい場合、上司である科長(もしくは艦長)から上陸止めにされることもあるのです。

地方隊所属の護衛艦であればその地方隊全体、群に所属している護衛艦であれば当該群全体の中で同じ問題が出題されることになるので、当然誰が何点で全体の何番だったかという残酷な発表が行われます。

初級幹部時代はこれが嫌で仕方なく、

「早く中級幹部になりたいなぁ」

と思っていました。

 

ところが中級幹部には『初級幹部検定』の代わりに『幹部課題答申』なるものが存在するのです。

そういえば上司の科長が

「毎日忙しいのに幹部課題答申なんかやってる暇なんてないよ」

とぼやいているのを聞いたことがあったかもしれません。

いざ自分が中級幹部になって、答申課題を選定しようと思ったら脂汗しか出てきませんでした。

自分の専門術科や興味のある研究課題でかつ実効的な内容であるものとなると、そう簡単には思い浮かばなかったからです。

この自由論文的な『幹部課題答申』に比べれば、一過性の試験形式である『初級幹部検定』の方が数倍楽だったことがよく分かりました。

 

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戦闘守則がない

本来、護衛艦には個艦ごとに固有の『戦闘守則』という文書があり、戦闘時に取るべき対応の標準が定められています。

これは艦が就役する時に策定されているべきものなのですが、「さわぎり」にはこれが存在しなかったのです。

正確にいえば、就役当初『さわぎり戦闘守則(案)』というものが存在したのですが、正規の文書として発刊することなく(案)のまま使い続け、規定の破棄年月が到来してそのまま破棄されたということです。

しかも、破棄手続きをした上で不当に紙媒体を保管していました。(なぜ諸監査において指摘されていないのか不明)

このような経緯から私が着任した時はすでに『さわぎり戦闘守則(案)』すら存在せず、戦闘を行うにあたって基づく文書が何もないという状況でした。

「うちの艦には、戦闘守則がないんですよね」

部下からサラッと言われたこの言葉に『唖然』『呆然』『愕然』としました。

突っこむべき相手は歴代の砲雷長や船務長なのですが、今更そんなことを言っても始まりません。

ないものは作るしかないのです。

しかも早急に。

 

『戦闘守則』を作成する担当は砲雷長なのか船務長なのか明確ではありませんが(故に所掌のはざまで放置されたと思われる)、自分が気付いてしまった以上やらざるをえないと覚悟しました。

この時は船務長が副長兼務だったということもあります。

また、私は中級課程学生修了後に『哨戒長戦術課程』に接続されるようになった第1期学生ということもあり、一応最新の情報を持っていることになっていたからです。(学習したことが正しく脳内に刻まれているというのが前提ですが)

そうはいっても、ほぼゼロの状態から『戦闘守則』を策定することは非常に根気のいる作業でした。(故に誰も手をつけずスルーしていった)

 

「さわぎり」砲雷長の幹部課題答申

ここで本題に戻りますが、どうせ本格的に取り組むのならこれを『幹部課題答申』のテーマにしようと考えました。

「それとこれとは別だ」

と却下される可能性もありましたが、とにかく急を要することと労力が大きいことから特例として幹部課題答申とすることを認めて頂きました。

私にとってのアドバンテージは今回の勤務が遠洋航海ということで、通常よりも時間的(精神的にも)余裕があったということでした。

 

日中はそのほとんどの時間を艦橋での訓練指導で過ごしていましたが、夕方以降朝までは自分の当直時間を除き余裕があったので、とにかくパソコンに向かってはパシャパシャと執筆作業に取り組んでいました。

こういうと簡単に思えますが、ページ数もそこそこのボリュームがあるので紙媒体からリライトするだけでも相当に時間がかかりました。

更に内容的に古くなっている部分は全面的に改訂し、文書としての体裁を整える作業にはより多くの時間を必要としました。

かくして150日の遠洋航海中に(案)を作り上げ、帰国後無事に発刊することができました。

このことは私が海上自衛隊に貢献できた数少ない事例なので、自分を褒めてやりたくて記事にしてみました。

ところで全国各艦艇長の皆様、貴艦の戦闘守則は大丈夫でしょうか?

 

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