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江田内を出て、予定通り柱島沖に投錨すると、早速艦内マイクが入ります。

「実習幹部は作業服に着替えて、食堂に集合」

これからの実習を効率的に進めるため、班編成やスケジュール、艦内生活の注意事項などについて連絡及び調整を実施します。

また、これに合わせて個艦の幹部として自己紹介を行います。

 

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私の自己紹介は大体以下の通りでした。


丁度10年前、私は皆さんの座っている側にいました。

今回、随伴艦の砲雷長として偉そうに指導することになっていますが、私自身は実習幹部としてかなり劣等生でした。

こうして各幹部の自己紹介を聞いている時も

「早く終わんないかなぁ」

「朝から卒業式で疲れたなぁ」

と思いながら座っているだけでした。

しかし、それだけに実習幹部がやる気をなくすポイントや戸惑うポイント、またどうやってサボるかということについては良く理解できると思います。

ですから、そういう事態にならないように気を配っていくつもりです。

 

私が実習幹部時代に一番嫌だったことは『艦艇希望じゃない実習幹部は人にあらず』といった風潮でした。

艦艇幹部が不人気だということに対する上層部の焦りが、そういった雰囲気を助長させていたのではないかと思っています。

実際、私は候補生学校時代は第一希望『艦艇』でしたが、遠洋航海終了時にはすっかり嫌気がさして『経理補給』になったほどです。

結果として希望通りにならなかったので、こうして砲雷長として皆さんの目の前にいるのですが、今となっては本当に良かったと思っています。

性格的にどう考えても1分隊の攻撃幹部しかありえないからです。

そういう意味では、海幕人事課はよく個々人の特性を見ているのだと思います。

 

皆さんも遠洋航海終了時には職種が決定されますが、希望職種ではなかったとしてもそんなにがっかりすることはありません。

皆さんに大人気のパイロットも空を飛んでいられる期間はそんなに長くなりませんし、なんといっても航空学生出身者という熟練した職人に技量で勝てる要素はあまりありません。

それに概ね勤続10年を過ぎる頃から、職種の枠を超えた共通職につくことが多くなるからです。

 

艦艇幹部として多少リクルート活動させてもらいますと、将来艦艇幹部となる人にとって遠洋航海の実習内容は、ごく近い将来の勤務内容に直結した内容となっています。

そういう意味ではこの実習の全てにおいて、無駄なことは一切ないので悩む必要はありません。

しかも、初任幹部として着任しても護衛艦には多くの先輩がいるので、たとえ怒られながらでも仕事を教えてくれる人がすぐそばにいるというメリットがあります。

 

逆に艦艇以外の職種を希望している人には、実習内容が将来の業務内容と一致していないので

「こんな艦艇の実習なんかしても、将来何の役にもたたない」

と悩むこともあるでしょう。

ですが、実習の本来の目的は配置訓練をどれだけ上手くこなせたかということにはありません。

訓練に備えて自分で『部署』を見て調べたり、個艦の幹部や乗員に質問したり、実習幹部同士で協力しながら申し継ぎノートを作成していくといった過程にこそ意味があるのです。

それは、艦艇以外のどんな職種に配置されたとしても役に立つ普遍性のあるものなのです。

 

最後にこの「さわぎり」は精鋭といわれる佐世保の第2護衛隊群に所属している本物の戦闘艦です。

みなさんが幹部候補生学校で乗艦実習した練習艦や数週間後に移乗する練習艦「かしま」とは存在の本質が違います。

短い期間ではありますが、本物の戦闘艦のチームワークとはどういうものか、しっかりと体感して行ってほしいと思います。

「さわぎり」に乗っている期間は、実習幹部という『お客さん』ではなく私たちの『仲間』だと思っていますので、大変なこともたくさんありますが、最後まで元気に楽しんでいきましょう。


と大体こんな感じでした。

 

実習幹部達は確かに朝からの一連の行事に疲労はしていましたが、それでもしっかりと顔を挙げて聞いてくれたので、私が伝えたかったことの半分くらいは伝わったのではないかと思います。

とにかく実習幹部とって

「遠洋航海はきつかったけど、充実していた」

と振り返ることができるように全力を尽くすつもりでした。

あれから10年の月日が経過し、丁度あの時の実習幹部が砲雷長に配置されている頃だと思います。

時代の移り変わりの速さに、戸惑いさえ感じてしまいます。

 

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