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遠洋航海中に実習幹部を叱りつけたことが一度だけあります。(多分一度だけだと思います)

それまで叱り役は実習幹部教育担当の砲術長と航海長にお任せしていたので、いつもニコニコしているだけという楽なポジションに甘んじていました。

しかし、どうしてもこれだけは叱っておかなければならないと思うことが起こったのです。

 

それは戦闘訓練における一コマでした。

我々が実習幹部のころは、戦闘訓練の時間はかなり少なかったように記憶していますので時代の変化を感じます。

戦闘訓練というのは、具体的には目標対処訓練のことです。

シナリオに基づいてコンソール上に作成した疑似目標(ミサイル)に対し、一連の手順に従って対処(撃墜)するまでの訓練であります。

 

それまでの基本7部署の訓練とは違い、ようやく護衛艦の本質である戦闘に特化した訓練ということもあり実習幹部の関心も高まっているようでした。

戦闘部署の発動から最初の目標を対処完了するまで訓練した後は、配置を交代しながら(番変えといいます)目標対処に特化した各部訓練に移行します。

その訓練の最中に事件は発生しました。

ある実習幹部の発言が耳に飛び込んできたからです。

 

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「この訓練おもしれ~、こういうのがやりたかったんだよ。まるでゲームみてーじゃん!」

 

配置の場所的にこの言葉が聞こえたのは私だけのようでした。

一旦はやり過ごそうかと思たものの、どうしても心に引っ掛かるので意を決して確信犯的にブチ切れてみました。

「誰だ今言ったのは!遊びじゃないんだぞ!人の命がかかっているんだから真剣にやれ!」

普段はこんな怒り方をしたことがないので、その場はかなり気まずい雰囲気になりました。

 

見かねた艦長が

「砲雷長、そんなに怒らなくても・・・」

と助け舟をだされたので、小声で

「大丈夫です。意図してやっているのでお任せ下さい」

と申し上げて実習幹部の集まっている場所へ歩み寄りました。

 

「誰が言った言わないは問わないから、少し話を聞いてくれ。

さっきゲームみたいで面白いといった者がいるが、確かに今やっていることはTVゲームの要素があると思う。

しかし、よく考えてみて欲しいのは訓練ではなく実戦だったとしたら、撃ち落とせなかった場合、誰かが戦死するかもしれないということだ。

今となりに座っている自分の部下が戦死するかもしれないということ、その部下には家族がいるということ、自艦が損傷あるいは撃沈されることで防衛ラインが崩壊し味方に更に多数の犠牲を出すかもしれないということを想像してみてもらいたい。

興味を持って訓練に取り組むことは良いことだけど、これは決してゲームなんかじゃない。

そこのところをしっかり理解した上で訓練に臨んで欲しいと思う。分かってもらえたかな?」

 

自分自身でも多少演出した部分を感じていたので、どのくらい真意が伝わったかは不明ですが、少なくともその場では神妙に聞いてくれました。

まあ後になって

「砲雷長、うぜ~」

とか言われていたかもしれませんが(笑)

 

実習幹部の立場では自分の部下がいないので、腑に落ちない部分があって当然だと思います。

ただ、自分たちがやがて個艦の幹部として配置された時に少しでも意識の底に残しておいてもらいたいという願いから敢えて問題提起してみました。

あれから10年以上たった現在では、艦艇職種に進んだ実習幹部も多くは砲雷長や船務長などの科長職を経験済みだと思います。

みんな部下のことを大事に思う幹部になってくれているだろうと思っています。

 

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