2003遠洋航海-crop

 

シンガポールを出港して、最後の寄港地フィリピンへと向かいました。

途中、南沙諸島を経由するということで緊張したことを覚えています。

 

諸説ありますが、米軍のフィリピン撤退によってパワーバランスに変化が生まれ、現在のような多国間紛争状態に陥ったことは否定できないと考えています。

また、この南シナ海は日本にとっても無視できない重要な海域ですので、他人事では済まされません。

そこで十分な海上戦力を有しないフィリピンから日本の海上防衛戦力に対する期待感は大きくなる傾向にあります。

「南シナ海は日本にとっての生命線でしょ?だったら目に見える形で努力してくれますよね?」

ということです。

 

これは単純に喜ぶべき性質のものではなく、日本としては利害関係を図りながら冷静に判断していかねばならないでしょう。

フィリピンにとっては、アメリカよりも日本の方が組し易い相手であることは間違いないのですから。

南シナ海は誠意だけでは国際社会では生き残っていけないという事実をはっきり分からせてくれる場所だと思います。

このブログではなるべく政治的な発言はしないように心掛けているのですが、一応立場をはっきりさせておいた方が良いと思いますのでここに明記しました。

 

マニラ

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マニラ港は1997年「てしお」水雷長として飛行幹部のミニ遠洋航海で訪れています。

当時は前部指揮官として艦首に配置されていた関係上、海の汚さと臭いに閉口したしたことを思い出します。

なんといっても牛の死骸がパンパンに膨らんで浮いていましたから・・・。

それとゴミの多さは筆舌しがたいものがあって、河川や海に直接ゴミを捨てているのだろうと容易に想像できるほどでした。

 

あれから6年が経過し、前回よりも湾内はきれいになっていたように感じました。

牛の死骸も流れてきませんでしたしね(笑)

いざ上陸してみると、街の様子も以前よりはきれいになっていたように感じました。

そもそもマニラ港付近はあまり治安も良くないエリアだということもあるのですが・・・

そんなことを考えながらぶらぶら歩いていた時事件は起こりました。

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前方から紙袋を抱えた男が、こちらに近づいてきたのです。

その様子をみてピンときました。

「これは、ぶつかり詐欺だ」と。

例によって正式入港する前に現地防衛駐在官から寄港地事情に関する講話があり、「ぶつかり詐欺」について説明を受けていたからです。

フィリピンに限らず世界中にある詐欺の手口だと思いますが、紙袋の中にワインのような液体を詰めたビンを入れ、すれ違いざまにぶつかって落下させ弁償を求めるというやつです。

「これは高級ワインだ!どうしてくれるんだ!!」

と騒ぎ立てる手口ですね。

 

私の正面から近づいてきた男は、十分に余裕をもってすれ違える場所から突然向きを変えこちらに近づいてきてぶつかろうとしましたが、こちらも事前に心の準備をしていたため華麗にスルーして身体接触はありませんでした。

すると何を思ったのか、男は改めて地面に紙袋を叩きつけ騒ぎ始めました。

あまりに無理な行動を見て、ちょっと笑ってしまいそうになるのを必死に堪えつつ

「他の上陸員に被害が出てはいけないのでちょっと懲らしめてやろう」

という悪戯心が出てきました。

 

まずは相手との距離を確保し、男の姿を観察するとボロボロのTシャツに短パンで足元は汚いサンダルという恰好でした。(この時点で高級ワインなどありえません)

見たところナイフなどの凶器も所持していなそうです。

推定年齢は30~40歳(実はもっと若いのかもしれませんが)、体の骨格や筋力は貧弱でした。

素早く周囲を確認しましたが、どうやら共犯者も存在せず単独犯だと確信しました。

周辺には一般人も往来しており、もし相手が襲い掛かってきたらその場で拘束し警察に通報を依頼できるだろうという判断に至ります。

以前、立入検査隊指揮官として逮捕術を研究していたので、あとは体が反応してくれるだろうという考えを持っていたからです。

 

そんなことを考えながら改めて相手の言っていることを聞いてみると、どうやら英語ではなくタガログ語のようでした。

時々『マネー』という単語が聞こえてくるので、金をよこせと言っているのでしょうが。

あれだけ英語教育が徹底されていて国民のほとんどが英語を話すフィリピンにおいて、英語が話せないということは学校に行った経験がないということなのでしょう。

フィリピンの抱える貧困という社会問題をいきなり突き付けられて複雑な心境になりました。

とはいえ犯罪は犯罪なので、今後日本人が舐められて同じような目に合わないよう毅然とした態度で臨まなければなりません。

 

しっかりと相手の目を見据えて、一挙手一投足に注意しながら時々周囲の人が振り返るほどの大声で

「NO!」と言い放ちます。

これを延々5分ほど続けた結果、何やら捨てセリフを吐いてくだんのぶつかり詐欺男は立ち去っていきました。

ですが、後ろを向いた途端に襲われないよう男が完全に視界から消えるまではその場に留まって見送りました。

「やれやれ、ようやく解放されたか」

と思いその場を離れようとしたら、周囲の一般人から拍手をされました。

なんだろうと思って、振り返ると露店で商売をしているおじさんが

「ミスター、勇気があるね。でもフィリピンの事嫌いにならないでね」

と声をかけてきました。

「もちろんです。我々は両国の親善が目的でマニラ港に入港した日本の海上自衛隊です」

と答えると

「ニュースで見たよ。この国をよく見て楽しんで行ってね」

といわれ、暗くなった気分が少しは晴れた気がしました。

 

日本で生活している時はほとんど感じることのない貧困という社会問題に遭遇したことで、改めて自分たちがどれほど恵まれた環境に生活しているのか再認識することが出来ました。

それと同時にこういう世界の常識をもっと深く認識しなければ、今後の国際社会で日本が生き残っていくことは難しいだろうという感慨に浸りつつこの国を後にしました。

 

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