2003遠洋航海-crop

 

 

赤道通過

最初の寄港地ハワイを出港し、ひたすら南下して次の寄港地タヒチ(パペーテ)を目指します。

真っすぐ南下するということは、赤道を越えるということであります。

そして赤道を越えるために船乗りは『赤道祭』を挙行して、赤道の神様に赤道通過許可をもらう必要があります。

私たちが実習幹部時代は『赤道祭』では飲酒が認められていましたが、2003年はすでに航行中の飲酒は禁止されている時代でしたので各分隊による出し物も多少は上品になった気がします。(基本男所帯ということもあり、女装やほぼ全裸というネタに収束するのは致し方ないことでしょう)

 

CCF20150613_00000-crop

 

私は二人羽織でマスタードたっぷりのホットドックを食べさせられ、しばらくの間は顔面が痺れたままとなりました。

マスタードって皮膚からも吸収するみたいですね(笑)

そんな赤道祭を楽しんでいるうちに武整長が私のところにやってきて

「砲雷長、そろそろ赤道通過するころですよ。あれやりましょうよ、あれ」

と催促してきます。

以前の記事で紹介したとおり、武整長は士官室の雰囲気担当幹部であるため、航行中も艦内マイクを使用してマイクパフォーマンスを行っていました。

「前方に虹が見える!」

「左舷にイルカの群れが並走中!」

などと艦内マイクで一斉放送すると、刺激に飢えた乗員達が甲板に見学に来るのです。

そんな艦内マイクパフォーマーの彼にとって赤道通過は見逃せないイベントなのです。

快諾した私とともに艦橋に行き、赤道通過予定時刻を算出し艦内に通達します。

「本艦の赤道通過予定時刻〇〇〇〇」

これで、艦内の古参乗員達は艦橋が何をやろうとしているのか理解できます。

そして、いよいよ赤道通過のその時

「本艦は間もなく赤道を通過する。・・・・ぜ、前方に赤道視認!」

「かっ海面が真っ赤に染まっている!」

「総員、赤道通過よ~~いってぇっ!赤道通過~~!!」

 

ocean-691140_640

 

後は若い乗員や実習幹部が甲板に飛び出してくるのを艦橋から見守るのです。

「そんなこと、あるわけない」

と思いながらも、先輩乗員達に

「えっお前知らないの?海に赤い線が引いてあるから赤道っていうんだよ」

などと散々吹き込まれているので、必ず甲板に飛び出してきます。

しばらくシゲシゲと海を見つめていますが、やがて艦橋からの視線に気が付いて振り向きます。

こちらも笑って手を振ると

「あっ、ダマされた!?」

という表情になるのです。

こうやって、若者たちは次回はダマす側に回る権利を得るわけであります。

Sponsored Link

 

防火訓練

基本7部署のひとつである防火訓練について説明します。

基本7部署とは、護衛艦乗員にとって最も重要な基礎的訓練で『出港』『入港』『防火』『防水』『応急操舵』『霧中航行』『溺者救助』の各訓練の総称です。

艦船における火災は陸上の火災よりも更に恐ろしいものであります。

何といっても逃げ場がありませんからね。

 

訓練の始まりは、艦内指導班の想定付与によって始まります。

「はい、火災発生。ベットが燃えている」

この場に居合わせた乗員は初期消火に当たるとともに(近傍から消火器を集めてくる)、以下のように連呼しながら艦橋に走ってゆきます。

「教練火災、第〇居住区、ベットが燃えている!初期消火実施中」

その声を聴いた他の乗員は最寄りの手段(テレトーク、艦内電話)で艦橋に火災を知らせます。

これを受けて当直士官は艦内マイクで状況を一斉放送します。

 

初期消火が成功してしまうと訓練がそこで終了してしまうので、規定の可搬式消火器が集積できたとしても初期消火は必ず失敗することになっています(笑)

やがて初期消火が失敗したことが艦橋に伝達され(発生の第1報からほとんど間髪なしであるが)、当直士官によって防火部署が発動されます。

「教練火災、場所は第〇居住区、〇舷ベットが燃えている。火災の種類はA火災」

艦内放送と同時にアラームが鳴らされ、総員配置となり艦内は非常閉鎖されます。

各部のハッチを閉じて通風を遮断し火災の拡大を防止するためです。

常夏の海域で通風(空調)を遮断し、全てのハッチを閉鎖した艦内で2百人弱の乗員が活動すればどうなるか・・・想像できますか?(天然サウナ)

 

艦橋に配置される幹部は

艦橋防御指揮官(本来副長配置。艦内全般の状況を統括し艦長を補佐する)

航海指揮官(航海長。当直士官は部署を発動した後に航海長に引き継いで自分の配置に向かう)

艦橋プロット(補給長。艦内各階層の平面図ボードに状況を書き込んでいく)

航海指揮官補佐(通信士。艦位把握や被害状況を報告する電報を起案する)

となっております。

他にも伝令など海曹配置にも実習幹部は配置されます。(伝令は上がってくる報告内容を理解しておく必要があるため極めて重要な配置である)

 

私は実習幹部『艦橋防御指揮官』の指導官として、艦橋で指導に当たっていました。

しかし、実習幹部がいきなり艦橋防御指揮官など上手くやれるはずもありませんし、我々も上手くやることを期待しているわけではありません。

期待しているのは情報の正確な伝達、各部との連携、そして何よりも事前調査を行い、実習幹部同士で協力して訓練を進めていく実行力を養成することでした。

 

実際、艦橋防御指揮官には全ての情報が集まってくるので、それを聞いて指示して適時状況を艦長に報告するには経験の蓄積が不可欠なのです。

私の役目は実習幹部が情報飽和状態になって『頭の中が真っ白』とならないようにヒントを出し続けることでした。

傷者人の有無(怪我の程度)、配置の完了、消化活動の現状、自艦消化の可否判定(訓練では自艦消化可能)など次々に情報が上がってきます。

その情報は艦内防御盤に書き込まれていくので、それを見ながら状況を把握し続ける必要があります。

火災が鎮火した後は、復旧に向けて一つづつ手順を踏んでいきます。

ここから先は二次被害を出さないことを念頭に置いて、焦らずに確実に作業することが重要となります。

排煙通路の設定、余燼の処置、被害状況確認等を実施したら、船体強度の影響を勘案し自力航行の可否を判定します。

状況がこの辺りまで進んだところで、現場から想定出し終わりの連絡が来ます。

これで防火部署を復旧して、各部ごと(艦橋、現場等)研究会を行います。

研究会は各配置の実習幹部と指導官が反省点や良かった点をコメントします。

これらのコメントや指導官からの指導事項を記載するのが『申し継ぎノート』で、訓練を重ねた分中身が充実して指導官に質問する内容が重複しないシステムになっているのです。(これについては別途エピソード記事を掲載予定です)

 

タヒチ

DSC00060

 

さてタヒチでありますが、パペーテ入港の前に検疫錨地に仮泊します。

折角の機会なので甲板から飛び込みを経験(練習艦隊司令部からの指示)させるべく実習幹部を上甲板に集めましたが、なかなか躊躇して飛び込もうとしません。

「これは見本を見せるしかないな」

と思いましたが、ノーマルパンツで飛び込むと脱げてしまいそうだったので、急いで海パンを用意して戻ったところ武整長に先を越されてしまいました。

しかも、ノーマルパンツで飛び込んだためお約束通り脱げてしまい、2重に美味しいところを持っていかれました。

それを見た実習幹部も次々に飛び込んで、貴重な体験ができたと喜んでいました。

中部甲板から飛び込んでも乾舷の高さは4メートルくらいありますので、意外と勇気が必要なのです。

ですから、一度これを経験しておくというのは船乗りとして大事な素養なのです。

 

DSC00083

 

翌日はパペーテに入港し、上陸することになりました。

通常の海外旅行と大きく異なる点は、日常生活の場である護衛艦の舷梯を降りるとすぐそこが海外であるということです。

日本は島国なので通常の海外旅行は飛行機を利用して行くことになり、出国手続き、機内での時間、入国審査など段階的に海外気分が高まってきて到着した時の高揚感に寄与していると思います。

ですが、護衛艦で海外に行くとこの段階が欠如しているので、『日常的に訓練を行い岸壁に着いたら、そこは海外だった』という感覚なのです。

ちなみに自衛官が護衛艦で海外に行く場合パスポートは所持していないので、通常の身分証明書がパスポート代わりとなっています。

 

タヒチは周知のとおりフランス領でありますので、街中の表記もフランス語であります。(さっぱりワカラン)

恥ずかしながら告白いたしますと、私の大学時代の第1外国語はなんとフランス語であります。(なんの片鱗も残っていなかったが)

 

DSC00086

海外の楽しみの一つに地元のマーケット(タヒチはマルシェ)に行くことがあります。

その土地ならではの食材を発見したり、日本円に換算して物価指数を図ることでその国の一面が見えてくるからです。

原色の魚や見たことのないフルーツなど興味が尽きることはありません。

 

 

4WD車でジャングルトレッキングにも参加しました。(岸壁にツアーデスクが臨時開業していた)

ジャングルのあちこちに滝があって、ツアーガイドが必ずそこで車を止めて飛び込むように催促するので、艦に戻るころには物凄い疲労感でした。

南国特有の甘い匂い(ジャングルの樹木)が印象的で、やはり長期間航海していると樹木が恋しくなるようです。

極端な話、陸上のあらゆる生物や植物が愛おしく感じます。(陸ロス?)

 

DSC00125

 

最後は岸壁前の屋台で軽く飲んで南国の夜は更けていくのでした。

酔っぱらっても艦までは50メートルで帰れるので安心ですね。

 

Sponsored Link