2003遠洋航海-crop

 

2003年4月24日、ついに日本出国の日がやって来ました。

出港も入港も日本の表玄関である晴海港からというのは、現在では当たり前かもしれませんが時代の変化を感じます。

我々が実習幹部の時代はとうとう最後まで晴海港の使用許可が出ませんでした。

「日陰者は表玄関の使用はまかりならぬ」

という最後の世代だったのです。

ようやく世界の常識といえる水準に達しただけともいえますが、やはりそれだけ国民の期待度が高まっている証拠でもあります。

そう考えると単純に喜んでばかりもいられずに、身の引き締まる思いで出港いたしました。

 

さて、国内巡航中は航行海域に多数の船舶が存在することや次の寄港地までの航程が比較的短いこともあり、なかなかじっくりと訓練に取り組むことが出来ない状況でしたがこれからは違います。

次の寄港地であるハワイ入港予定は5月7日ですので、ほぼ2週間にわたる長丁場であります。

単純にハワイまでの航程が長いこともありますが、最初の航行訓練期間にじっくりと基礎固めを行い、その後の訓練の資とする目的もあるのです。

日本から遠ざかるにつれて行き交う船舶も少なくなり、自分達練習艦隊以外は船舶の影さえ見えなくなります。

それに伴って様々な色彩に変化していく海を見ていると、心の底から開放感を覚えます。

これは自分が実習幹部時代には全く感じなかったことで、当時は海の色彩を眺める精神的な余裕がなかったからでしょう。

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洋上給油

晴海を出港して3日、付近を航行する船舶の影もまばらになった頃に補給艦による洋上給油が行われます。

洋上給油については、日本近海でしか実習させることができないためです。

さすがに洋上給油は実作業ということもあり、実習幹部にはそれぞれの配置で見学してもらうことになります。

それぞれの幹部にそれぞれ実習幹部がついてくるので狭い艦橋は人で溢れていますが、本来の目的が実習幹部に洋上給油を実習(見学)させることにあるのですから、そこを意識する必要があります。

私の分身である『実習幹部砲雷長』には、あらかじめ洋上給油の号令詞が記載されたパスケースを渡して作業の全般的な流れを説明しておきました。

補給艦に近接を始めた時から蛇管(燃料を受給するパイプ)を結合するまでの間は、最も緊張を要する場面であるので黙って見学に徹してもらうことになります。

給油作業が開始したら、改めて質問を受け付けて砲雷長が留意すべき視点を説明します。

最もそれが直接役に立つかどうかは、その実習幹部が遠洋航海終了後に配置される職種にもよりますが、貴重な機会に伝えられるべきことは全て伝えるのが私の義務であると考えていました。

洋上給油を終了し海域から離脱していく補給艦の後姿は、今度こそ本当に日本からの旅立ちを象徴しているようで感慨深いものがありました。

 

蛇行運動訓練

航行訓練の内容についてを紹介します。(この遠洋航海シリーズの中で各種訓練を紹介していく予定です)

朝は蛇行運動と呼ばれる訓練で一日が始まります。

3艦が等間隔に縦一列で陣形を整形(単縦列)して、先頭艦(基準艦)が左右どちらかに変針(針路を変更)します。

2番艦は基準艦が変針した場所まで直進し、同じポイントで転舵して基準艦の航跡に続航します。

この転舵点の目測を誤ると先頭艦に後続することが出来ず、外側に大きく飛び出したり、逆に早く回頭しすぎて内回りになったりで、その修正のためにフラフラすることになります。

 

3番艦も同じ要領で2番艦の航跡を続航します。

3番艦の続航を確認したら、基準艦は再び左右どちらかに変針します。

この運動を30分間実施したら、基準艦交代となり先頭艦は大きく反転して最後尾に就きます。

3艦で合計1時間30分の訓練となります。

 

文章で書くと随分簡単に思えますが、護衛艦を操艦するというのはこれが案外難しいものなのです。(果たして海上自衛官以外に、この文章を読んで内容が理解できるだろうかという疑問はありますが)

その理由は

  1. 艦にはブレーキがない
  2. 自分でハンドル(舵)を握っているわけではない(操艦号令で艦をコントロール)
  3. 艦は惰性を考慮した操艦を要する(増減速、転舵)
  4. 操艦意図をあらかじめ伝えなければならない

車の運転であれば、決められた車線を自分自身がハンドル、アクセル、ブレーキ操作することによって直接コントロールできます。

前の車に続行して走行することはさほど難しいことではありません。

しかし、艦の場合は先頭艦の後ろを同じ距離を保って航行することさえ意外と難しいことなのです。

 

双眼鏡の分画(双眼鏡内部に目盛が刻んである。艦のタイプによって甲板面からマストまでの高さが決まっているので、距離に対する目盛数が比例する)で前方の艦との距離を確認しつつ、離れそうであれば増速して距離を詰め、詰まりそうであれば減速するという細かい微調整が必要となります。

例えば増速して距離を詰める場合は、ポイントに到達する手前で惰力を見越して減速する(増速を解除する)必要があります。

この計算が上手くできなかったり、増速中であることを忘れているといつまでも占位(定位置に留まること)することができません。

自分が増速中だということを忘れることなんてありえないと思いますか?

いいえ、これが良くあることなのです。

それも実習幹部に限ったことではなく、個艦の幹部になってもありうることなのです。(経験を積むことによってミスは少なくなりますが)

 

なぜかといえば定位置に占位しながらも、艦長に次の運動の意図(インテンション)を伝えたり(例:『転舵点になりましたら、面舵をとって「かしま」の航跡に入ります』など)、増減速惰力の計算をしたり、見張りからの報告に応答したりと常に頭の中をフル回転させる必要があるからです。

護衛艦乗りには『頭より早く艦を走らせるな』という格言がありますが、これは自分でコントロールできない状態で艦を運航するなということであります。

一般的に人が乗り物を操縦している状態においては、頭の働きは通常の6割程度だと言われています。

そういう状態で同時に複数の作業をこなす必要性が、操艦を難しくしている理由だといえます。

だからこそ、略算式(位置修正のための簡単な計算式)などを用いて、常に頭の中をシンプルかつクリヤーに保つ必要があるのです。

全てをシンプルにして、早め早めに対応することが自分自身に余裕を与え、安全で確実な操艦に繋がっていくのです。

これは護衛艦の操艦に限らず、一般的な仕事術に置き換えても普遍的に通用する真理だと思います。

 

蛇行運動は艦隊運動の基本中の基本として、練習艦隊だけに限らず通常の部隊訓練でも重視されています。

世界でも屈指の操艦技術(シップハンドリング)の基礎はこのようにして磨かれているのです。

また、こうした技術はまさに日本人の得意とする領域でありましょう。

 

パールパーバー入港

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米海軍のパールハーバーに入港しました。

米海軍基地の研修に向かう実習幹部を見送ったあと、私達個艦の幹部や乗員は自由に上陸することができます。(役得ですね)

ワイキキビーチでの遊泳は適切でない(海底がゴツゴツしていて足の裏が痛い)ということは、実習幹部時代に経験して織り込み済みです。

それでもビーチを散歩したりショッピングしたりと、日本出国から約2週間ぶりの休日を満喫しました。

 

ハワイはいうまでもなく日本人に大人気のリゾート地ですが、何となく『仕事で』しかも『護衛艦で』行くところというイメージが定着しており、プライベートで(航空機で)行ったことは一度もありません(笑)

リゾート地ということで開放感はありますが、全てが人工的かつ商業的で人々の生活に触れる機会が少ないことから、個人的には旅行したいと思いません。

パールハーバーの米軍基地施設が充実していて、わざわざ市街に行く必要性がないことも理由のひとつでしょう。

巨大なネービーエクスチェンジ(売店)で買い物したり、ユニフォームショップに行ったり、1カット5ドルの床屋に行ったり、米海軍のクラブで食事したりと安く快適に過ごせてしまうからです。

そういう訳でわたしにとってのハワイとは、パールハーバー米海軍基地ということに尽きるのでした。

 

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