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任務船務課程を修了し、改めて「せんだい」に帰艦してみるとなんだか慌ただしい様子。

「なんだろう?」

と思っていると、当直士官が

「おおっ、いいところに帰ってきたな2分隊士!お前のところの分隊員が所在不明になってるぞ!現在捜索中だから議事録を作成しろ!」

「!?」

 

長ーい教育を終えての最初の任務は 『失踪隊員の捜索』だったのです。

地図を広げて捜索エリアを検討しつつ、何時何分にどのようなアクションをとったかを記録、情報収集、判断、指示といきなり実戦を経験することになりました。

実はこの時

「どうして、こんなに大騒ぎするのだろう」

というのが正直な感想でした。

まだ自衛隊的な思考回路が十分に形成されていなかったということでしょう。

 

自衛隊には未成年もいますが、給料をもらって勤務しているのですから社会人であることに変わりはありません。

その社会人が自分で判断して『失踪すること』を選んだのであれば、自己責任ということでいいのではないか?

この当時はそういうドライな考え方を持っていました。

 

艦(ふね)は一つの家族だということも言われますが、ちょっと過保護ではないかとも考えていました。

根底にこういう考えがあったので、忙しく働き続けながらもどこか冷めた気持ちを拭いきれなかったというのが実態でした。

 

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そして発見

この騒動は幸いにもその日の夜になってから、本人があっさりと発見され帰艦することで終息することになりました。

しかし、本当に大変だったのはこの後でした。

 

失踪の原因は借金です。

自衛隊員は特別国家公務員であることもあり、簡単にお金を借りることができます。

しかも返済が滞って本人がパンクした際も、上司が返済計画を立てて解決するということを金融業者はよく心得ています。

民間にそんな過保護な対応してくれる会社なんて・・・ありませんよね?

 

だから自衛官にはとりっぱぐれのない、確実な貸付先(優良顧客)としてどんどん貸してくれます。

それが、通常よりも借金の返済金額が大きくなる原因ともいえます。

その後は同様の経験を積み、大体どのくらいの金額がパンクリミットであるか、またその対処法も分かってきますが(借金返済問題のエキスパート化)、今回は初体験なだけに少々面喰いました。

 

対処法ですが、営内居住者(艦内居住者)は基本的に自分の嗜好品以外にお金が必要ありません。

衣食住の全てが無料だからです。(正確には給与の一部)

逆にこの状況を最大限に活用するのです。

 

通常は艦外に『下宿』とよばれるアパート等を設定し、勤務外の時間はそこで過ごすことが許可(独身は艦内居住が義務付けられているのであくまでも許可制)されていますが、こういう事態が発生すると当然その許可は取り消しになります。

これこそ海上自衛隊が誇る伝家の宝刀『上陸止め』といいます。(海上自衛官の最も恐れている刑罰の一つでしょう)

 

上陸止めになると、身分証を取り上げられ、営外への外出は基本的に不可能となります。

たとえ訓練等で他所の寄港地に入港したとしても状況は同じです。(母港以外の上陸は、最大の楽しみの一つですから辛さも倍増)

ただし、精神衛生面を考慮し岸壁周辺でのジョギング等は奨励しています。

 

そして、改めて調査を実施し借金の全容を把握、返済計画を立案、金融業者への金利引き下げ交渉等を行います。(分隊長、分隊士、分隊先任、班長)

本人の給料口座は差し押さえ、嗜好品購入費を小遣いとして支給し、その他は全て借金返済に充当します。

借金の総額と本人の年収に応じて、上陸止めの期間が自動的に定まります。

 

それは長ければ1年以上に及ぶこともありますが、共通していえることは全てが露呈して上陸止めとなり、借金返済の計画が明確になってしまえば、本人はいたって平穏かつ快活な生活を取り戻すことができるということです。

私の知っている限り、一人の例外もなくそうでした。

最初の1週間程度は神妙にしていますが、艦内軟禁生活に慣れてくれば、借金返済に苦しんでいたときよりも数倍気分が楽になるのでしょう。

次第に明るさを取り戻し、仕事にも身が入ることになります。

 

しかし、これには弊害もあります。

一度この借金完済を経験すると、その安易さ(全部上司が処理してくれる)に安心し、再発するの恐れがあるということです。

それゆえに、借金の使途内容を把握して、同じ過ちを繰り返さないよう指導することを忘れてはいけません。

最も多いのが、パチンコ等のギャンブル、次がキャバクラ等の飲食、変わったところでは某ふとんメーカーの高級羽毛布団1組50万円を女性訪問販売員に2組契約させられたなんていうのもありました。

どれも他人からみれば、

「どうして、そんなものに・・・」

と思えますが、本人にとってその瞬間は借金してでも手に入れたいものであるのです。

 

ギャンブルに代わる健全な趣味の奨励も含め、将来的な貯金の必要性について改めて教育するのですが、再発は本人の自覚次第です。

くれぐれも、喉元過ぎれば熱さを忘れるということのないように・・・です。

 

・・・何だかほとんど借金の話になってしまいましたが、こうして私の艦艇幹部としての勤務は始まりました。

もちろん、この事件の騒動に全力投球している間に本来やるべき仕事は全て手つかずで残ったままで・・・

とはいえ、やるべきことはやらねばならない。

言い訳できないのが、幹部自衛官の辛いところです。

 

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