ある日のこと、士官室に入ると通信士が艦長に叱られている様子。
普段は何事もそつなくこなし、艦長にも可愛がられている通信士だけに
「・・・めずらしいな」
と思ってよく内容を聞いてみると・・・
どうやら週間予定表の内容に関するもののようだ。(およっ!?)
個艦訓練で実施する『各科訓練』の内容が『各科所定』となっており、具体的内容が記述されていないというものでした。
各科訓練は、文字通り各科毎の訓練を教育訓練計画に基づいて実施するものです。
そうです。
これは航海長である私の所掌業務なのです。
だからこそ週間予定表は各幹部の合議が終わった後、艦長決裁の前に航海長が最終チェックするのです。
通信士は決裁をもらうために『どばっちり』を受けて叱られているに過ぎないのです。
「しまった、今までそれで決済を頂いていたから何の疑問もなく合議してしまった」
と思った私は黙って通信士の隣に雁首を並べました。
「なんだ、航海長?」
「申し訳ありませんでした。私の所掌です。」
「・・・もう一度、各科と調整して持ってくるように」
と苦笑いされながら放免になりました。
どうやら事の真相は、通信士があまりに要領良く仕事をするので、初級幹部が上っ面だけ仕事を覚えて慢心しないように敢えて叱責されたようでした。
そのネタがたまたま週間予定表だったと。
地に足を付けて、乗員と交流し情報を引き出す習慣を持ちなさいということなのでしょう。(推測)
ともあれ、通信士は航海長の半身であるので、見殺しにはできません。
自分が士配置のころ、見殺しにされて嫌な思いをしたので、絶対にそうはしたくないと思っていましたから。
二人で叱られれば、怒りも半減しますしね。
偉い!子供の頃、やられて嫌なことは人にはしないと教わりました!
雷蔵 様
そうやって艦長を煩わせる前に科長クラスが気付いて指導するべきなのでしょうが、自分のことで精一杯で余裕がなかったというのが実情です。
また、通信士がそれだけの魅力を持った人物だったということもあります。
ほんの三年前に自分が同じ配置であれだけ苦労していた業務内容をいとも簡単にこなす姿を見て、スペックの違いを痛感しました(笑)