はじめに

過去の自分について正直に告白すると、私は非常に鼻持ちならない人間でした。

それは、いわゆる癇が強いという類の性質を持ち合わせていたからでしょう。

特に若い頃はその傾向がより顕著だったように思います。

 

中学や高校の頃などは、自分より一年か二年早く生まれただけで偉そうにしている先輩という存在がどうにも我慢ならず、それが理由で部活動にも一切参加しなかったほどです。

とにかく自分自身が根拠のない自信に満ち溢れているので、それが強いオーラとなって周囲の人に生意気な印象を与えていたことでしょう。

今にして思えば全くのお笑い種(というより冷汗もの)なのですが、天上天下唯我独尊を地でいっていたと思います(笑)

 

そんな私がうって変わって献身的に人に尽くす大切さを学んだのは、間違いなく海上自衛隊での勤務経験によるところが大きいと考えています。

本日はその中でも特に印象に残っているエピソードを紹介しましょう。

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着任までの背景

本日のタイトルに最もふさわしいのは、何といってもこの護衛艦ちくま着任時のエピソードです。

すでに過去の投稿記事をお読み頂いている読者さんには今さら説明不要かもしれませんが、初めての読者さんのために当時の背景について軽く触れておきたいと思います。

 

私が護衛艦ちくまに着任したのは1997年5月のこと。

護衛艦せんだい通信士、護衛艦しまかぜ機関士、護衛艦てしお水雷長といわゆる3ローテーション勤務を経て、初めての科長となる航海長としての着任でした。

 

前配置の水雷長は職名に【長】とはついているものの、直属の上司として砲雷長が存在していることもあり、その責任は限定的だといえます。

しかし、航海長は科長として艦長を直接補佐する立場にあるのです。

今までにない重責を担うことに身の引き締まる思いで一杯でした。

 

また、航海長はその艦の教育訓練の中心となるキーパーソンでもあり、そのこともプレッシャーを感じる一因でした。

さらにいうと自分が過去に勤務した艦の航海長は皆さん素晴らしい人材ばかりで、

『彼らと同じような働きが果たして自分にもできるのだろうか?』

そういう不安も抱えていたのです。

そして、着任の日

前配置の護衛艦てしおは飛行幹部のグアム方面ミニ遠洋航海に従事したこともあり、転任の内示を受けたのは帰国直前の沖縄寄港中のことでした。

海外から帰国してすぐに転任するということで、非常に慌ただしかったことを思い出します。

(帰国したらノンビリできるかな?などと目論んでいたのですが、海上自衛隊はそんなに甘くないです)

 

私が新たに着任する護衛艦ちくまは、すでに定期検査の終盤に差し掛かっていました。

この定期検査が終了すると同時に本格的な練度回復訓練が始まるため、その訓練計画を立案する航海長の着任は艦長にとっても待ちきれないという想いではなかったかと想像します。

(定期検査中ということで前任の航海長は欠員中だったのです)

 

当日の朝、横須賀で前配置の離任を済ませてから、一路舞鶴を目指して移動します。

(ちなみに転任のためとは言いながら、このプチ旅行は私にとって密かな楽しみでもありました)

舞鶴での勤務は2度目ということもあり、勝手知ったる土地への転居という気安さもあったようです。

 

前述したとおり護衛艦ちくまは定期検査中なので、当時所属していた舞鶴の北吸岸壁ではなく、すぐお隣の日立造船ドックに係留されていました。

夕刻に近づいた頃にようやく到着した私は、その足で士官室を訪ね当直士官と副長に着任挨拶をします。

当時の副長はベテランの機関長で、初対面でもその穏やかな人柄が伝わってきました。

新しい艦に着任する時はいつもドキドキするものですが、不安要素の一つが解消されて気分が和らいだことを覚えています。

(副長が上だけを見て仕事するタイプだと士官室は確実に疲弊するものです)

 

『じゃあ、艦長はドックハウスにいらっしゃるので挨拶にいこうか』

副長に案内されて、いざドックハウスの艦長執務室へ向かう途中、再び緊張が高まるのを感じます。

艦長の好意に圧倒される

ドアをノックして室内に入ると、そこには満面の笑みを浮かべて振り返った艦長の姿が。

と同時になんとも形容しがたい明るいオーラに包まれる感じがしました。

 

そして、私の着任の挨拶を待たずに

『おー航海長。待ってたよ!これからよろしく頼むなっ』

そう言いながら椅子から立ち上がり、私の肩に手をかけてくれました。

 

海上自衛隊における艦長への着任挨拶は一種の儀式でもあり、まさかこんなフレンドリーな対応をされるとは想像もしていなかったので、正直最初は戸惑いを感じました。

しかし、その言葉と態度、そして何よりもその笑顔によって、艦長が本当に自分を必要としてくれていることが伝わってきたのです。

 

この瞬間

『この艦長のために自分の持てる全てを尽くして働こう』

そう決意したのです。

 

もちろん、そういう献身的な気持ちで職務に邁進していれば、自然と艦長にも伝わります。

そんな部下をかわいいと思うのはごく自然な感情ではないでしょうか。

私にとって好意の連鎖はこうやって始まりましたが、そのきっかけはやはり一番最初の艦長の言葉だったといえるでしょう。

おわりに

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世間では自分の部下が思うように働いてくれないと嘆いている上司が溢れているようです。

しかし、その原因は果たして部下の方だけにあるのでしょうか?

 

あなたが部下の献身を期待する一方で、その部下に好意を示していなければ、感情の等価交換は発生しないでしょう。

人間は、自分に興味も好意も向けない相手に対して本気で貢献しようとなどとは思わないのです。

ですから人間の行動を左右するのは、他のなにものでもなく感情の動きにこそあると確信しています。

 

人と人との出会いは正に一期一会

だとしたら、その貴重な出会いは是非素晴らしい一生の思い出にしたいものですね。

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