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海上自衛隊のみならず、全ての船舶において見張りは重要な任務であります。

全ての海難事故は『不十分な見張り』に起因しているといっても過言ではありません。

航行中の護衛艦は艦橋と後部甲板に目視見張り要員、CICにレーダー見張りを配員して他船舶の動静や航路上の障害物などの監視任務に従事しています。

今回はこの『艦橋見張り員』についてお話ししたいと思います。

 

先ほど見張りは重要だと定義した反面、実際に見張りに配置されるのはその当直員の中で最も若い、もしくは階級が低い海士であることが普通です。

船乗りとしての初歩的な素養を身に着けさせるという意味もありますが、露天の最も過酷な勤務環境を最下級者に押し付けているという側面もあるのかもしれません。

日中は太陽に照り付けられて暑いし、雨が降れば(特殊雨衣は着用するが)全身びしょ濡れになるし、冬の夜間航行など寒くて凍える思いに必死に耐えながら勤務しているのです。

 

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当直士官(航海指揮官)は、彼らがどんな思いで立直しているのかということに思いを致さねばなりません。

当然のことですが、彼らの報告に対して真摯に向き合うことが最も重要なのです。

当直士官には、艦内各部から各種報告などの情報が集まってきますし、日課の施行などにも気を配る必要があるため頭の中は常時フル回転しています。

そんな中でも、見張りからの報告を軽視することがあってはならないのです。

 

見張り員が目標を発見報告する際

「船影1、右〇〇度、〇〇(目測距離)、操業中の漁船と思われる」

などと報告してきます。

この報告を受けた当直士官は、自分でも双眼鏡で確認して

「当直士官、視認」

と応答します。

このやり取りは、艦橋内にいる伝令を介して行いますが、ジェスチャーやアイコンタクトを見張り員に送ると更に良いと思います。

 

この時に大事なことは、見張り員が目測で報告してきた距離に対して、レーダーによる正しい距離を伝えてあげることです。

そうすることで、見張り員が目標の種類や大きさによって起こる錯覚の特性を理解し、正確な距離感を把握できるようになってくるからです。

この辺りことは、CICに

「見張り員の報告した目標に対して、必ずレーダーでの測定距離を伝えるように」

と予め指示しておけば良いのです。

訓練によって技量が向上してくると、目測と実測との誤差が一桁%しかないほどに成長します。(意外と普段の生活でも便利な能力である)

 

私が当直士官の時は状況が許せば、見張り員のいる艦橋ウィングに出て行って目標の整合を行い、引き続き目標の動静について注意するように改めて指示したりしていました。

ともすれば、孤独なりがちな見張り員の任務に対し

「君の報告がとっても役に立っているんだよ」

と態度で分かり易く示すことは、見張り員のモチベーション維持に欠かせない要素です。

もし、自分の報告したことが軽視されている、または無視されていると感じたなら、誰も真面目に報告しようとは思わないはずです。

 

また、これは賛否両論あるかとは思いますが、悪天候や厳冬期などは見張り員を艦橋の中に入れ、双眼鏡を与えて任務に従事させたりしました。

艦橋ウィング(見張り員の立直場所)は吹きっさらしであるため、気象海象の影響を直接受けます。

そんな中で無理に外で見張りをさせても、モチベーションが維持できませんし、寒さに震えて風が少しでも当たらない場所にじっとしているのが実情だからです。

それよりも艦橋内の快適な環境でしっかりと見張りをさせた方が、本来の目的に沿うものであるという考えでした。

 

もっとも、どんなに厳しい状況でも本来の場所で任務に就いてもらわなければならないこともあります。

ですが、日頃からチームの大事な一員なんだということを実感していれば、嫌な顔一つせずに進んで厳しい任務に耐えてくれます。

常に相手の気持ちに寄り添って物事を判断しつつも、達成すべき目的の本質を見失わないことが当直士官に求められる資質だと考えていました。

 

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